うつ症状の原因は、セロトニンの不足などとよく言われていますが、本当にそうなのでしょうか?
うつ症状の原因がセロトニン不足だとしたら、セロトニンの濃度を上げる抗うつ剤などを服用しても一向に良くならないのは何故なのでしょうか。
今回は、うつ病の原意とされているセロトニンという物質と、セロトニン不足がうつ症状に与える影響、セロトニン濃度の上げ方、セロトニン不足以外のうつ症状の原因などを詳しく解説します。
目次
セロトニンってどんな物質?
セロトニンとは、脳の神経伝達物質の1つで、トリプトファンと呼ばれるアミノ酸から合成されます。
セロトニンが分泌されることにより精神の安定や幸福感をもたらすことから、別名、幸せホルモンなどとも呼ばれています。
また、セロトニンから合成される「メラトニン」という神経伝達物質は、入眠や安眠などの睡眠の質とも深く関わっており、セロトニンの不足はメラトニンの不足にも繋がります。
不眠はうつ症状と深い関係があり、メラトニンが不足すると不眠などの症状が現れることから、うつとセロトニンは深い関係があるといわれています。
セロトニンが不足するからうつ病になる?
うつ病が発症すると、気分の落ち込みや倦怠感など、様々な不調が起こります。うつ病が発症する要因についてまだ詳しく分かっていませんが、脳内の神経伝達物質の低下で起こると言われています。
神経伝達物質には、やる気や意欲をだすノルアドレナリンや、気分を落ち着かせるセロトニンなどがあります。
正常な状態では、これら神経伝達物質が十分に放出され、受容体に取り込まれて作用していますが、何らかの原因によってこれらの神経伝達物質の分泌量が減ってしまうと、意欲ややる気が低下し、うつ病になるとされています。
また、大切な人や物を亡くしたり、環境の変化、人間関係のトラブルなど、大きな精神的ストレスがかかると、体がストレスに負けてしまい、心身に不調をきたすことがあります。
人がストレスを受けると、副腎から抗ストレスホルモンが分泌されますが、この抗ストレスホルモンの材料であるタンパク質やビタミンCの摂取量が十分でないと、抗ストレスホルモンの分泌量が足りず、ストレスから立ち直れなくなってしまうことがあるようです。
セロトニンの材料、トリプトファンを摂ったらうつは治る?
よく、「うつの人はトリプトファンが多く含まれている食べ物がいい」と言われていますよね。トリプトファンとは、脳の神経伝達物質であるセロトニンの材料となる栄養素です。
セロトニンは、感情や精神面、睡眠など人間の大切な機能に深く関係する三大神経伝達物質の1つです。セロトニンは別名「幸せホルモン」と呼ばれ、分泌されるとリラックスしたり幸せを感じたりする事から、メンタルに良いとされ、近年注目を集めています。
うつ症状があるひとは、このセロトニンの分泌量が減っていて、これが原因でうつ症状が発症していると言われています。
ですので、トリプトファンが多い食べ物を食べれば、体の中でセロトニンに変換され、うつ症状に効果があると言われているのです。
このトリプトファンが多く含まれている食べ物としては、牛乳、ピーナッツ、バナナ、ヨーグルトなどがありますよね。これらを食べたら、本当にうつ症状が改善するのでしょうか?
分子整合栄養医学の観点から見ると、トリプトファンを摂取しただけではうつ症状はよくならないと言えるでしょう。
トリプトファンだけ摂取してもうつ症状は改善しない
トリプトファンは、特定の食べ物にしか含まれていないような気がしますが、実際は私達が普段食べているものに多く含まれています。
ですので、基本的にトリプトファンが不足することはありません。
実際に普段食べているものにどのくらいのトリプトファンが含まれているのかは、以下の表にまとめました。
トリプトファン含有量が多い食べ物(可食部100gあたり)
白米 | 82mg |
玄米 | 94mg |
パスタ(乾麺) | 140mg |
そば(乾麺) | 170mg |
鮭 | 250mg |
カツオ | 310mg |
マグロ赤身 | 270mg |
豚ロース | 280mg |
鶏むね肉 | 270mg |
木綿豆腐 | 98mg |
豆乳 | 53mg |
バナナ | 15mg |
牛乳 | 82mg |
ピーナッツ | 27mg |
ヨーグルト | 42mg |
バナナ、牛乳、ピーナッツ、ヨーグルトに比べると、私達が日常的に食べている白米や豆腐、パスタやそばのほうが、トリプトファンは多く含まれていますね。
特に多いのが、魚や肉などの動物性タンパク質です。表では、どれも200mgを超えており、多いものでは300mg以上含まれています。
生活する上で必要なトリプトファンの一般的な摂取量の目安は、体重1kg当たり2mg程度と言われています。これは、体重が50kgの場合はおよそ100mg程度にあたります。
上の表は可食部100g当たりのトリプトファンの量ですから、普通に考えて一日に100g以上は余裕で食べていますよね。つまり、パスタやそば、白米などを200g程度食べれば、一日に必要なトリプトファンは十分に摂取出来ているのです。
それでは、なぜトリプトファンを日常的に摂取しているにも関わらず、うつ症状が発症してしまうのでしょうか?
それは、うつの原因はセロトニンだけではないからです。
脳の神経伝達物質は、興奮系のドーパミン、抑制系のGABAがあります。この2つのバランスを調節しているのがセロトニンです。
シーソーで例えると下図のように、支点の役割を担っています。
うつ症状を発症している方は、セロトニンだけでなく、ドーパミンやGABAの分泌量も減っています。ですので、セロトニンだけを補っても、肝心のシーソーのバランスが整いません。
うつ症状を改善するには、これらの神経伝達物質の材料となる栄養素をまんべんなく摂取することが重要です。
この神経伝達物質の材料となるのが、牛肉などの「タンパク質」なのです。なぜ、タンパク質と脳の神経伝達物質が関係あるのでしょうか。
それは、肉を摂取すると、胃酸などで分解されてアミノ酸になり、このアミノ酸が脳の神経伝達物質の材料になるからです。
脳の神経伝達物質の材料をまんべんなく摂取することが鍵
下図は、タンパク質が脳の神経伝達物質に分解、合成されるまでの過程を表したものです。
タンパク質(プロテイン)を摂取すると、いくつかの工程を経てアミノ酸に分解されます。脳神経伝達物質で重要なのは、「L-グルタミン」「L-フェニルアラニン」「L-トリプトファン」と呼ばれるアミノ酸です。
このアミノ酸は、ビタミンやミネラルを元に、神経伝達物質である「ドーパミン」や「セロトニン」「GABA」に合成され、消費されていきます。
これらの神経伝達物質は、互いにバランスを取りながら分泌されるので、どれか特定のアミノ酸を大量に摂取したとしても、特定の神経伝達物質が大量に分泌されるわけではありません。
ですので、トリプトファンだけを摂取するのではなく、脳の神経伝達物質の材料となるアミノ酸をバランス良く含んだタンパク質を摂取することが重要になるのです。
そして、アミノ酸から神経伝達物質に合成する時には、補酵素としてビタミンやミネラル等が必要になりますので、これらも同時に摂取するように心がけましょう。
例えば、L-トリプトファンから5-HTPに合成する時には、葉酸、鉄、ナイアシンが必要になります。上述した「トリプトファンが多く含まれている食べ物」の栄養素を見てみると、そのほとんどに鉄分が入っていません。
鉄分が足りなければ、どれだけ食べたところでアミノ酸が神経伝達物質に合成されることはなく、そのまま体外に排泄されてしまいます。
このように、特定の栄養だけを摂取しても、他の栄養素が足りなければ脳の神経伝達物質を合成することが出来ないのです。
うつの原因は、セロトニン以外にも様々
うつ病の原因は、セロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンなどの分泌不足と言われている以外にも、以下のような原因からうつ症状が現れることが分かっています。
- 質的な栄養失調
- ストレスによる腸内環境の悪化
- 鉄分不足
- 薬の副作用
- ピロリ菌の感染
- 腸カンジダの感染
- 糖質の取り過ぎ(糖尿病、血糖調節障害)
- 腸の不調
- 脳の慢性炎症
- ホルモン障害
- 更年期障害とPMS(月経前症候群)
- アジソン病、クッシング症候群、ストレスによる副腎疲労
- 甲状腺機能障害
- 認知症(アルツハイマー)
- 妊娠、産後うつ
これは、脳の神経伝達物質に限らず、質的な栄養失調であったり、ホルモンバランスの乱れであったり、細菌に感染していたりするなど、多岐にわたります。
ですので、ご自身のうつ症状の原因が、セロトニン不足以外の可能性もあることを疑った方がよいでしょう。
これらうつ症状の具体的な原因については、うつ病が発症する原因とは? メカニズムと要因を解説で詳しく解説していますので参考にして下さい。
セロトニンが不足しているからうつ病になる? セロトニンとうつの関係と分泌量を増やす方法とはまとめ
以上が、セロトニン不足によるうつ症状の関係と、分泌量を増やす方法、セロトニン以外のうつ症状の原因でした。
ここまでの流れをまとめると……
- セロトニンが不足すると不眠や気分が落ち込む
- セロトニンはトリプトファンから合成される
- トリプトファンだけを摂取しても意味が無い
- 脳の神経伝達物質の材料であるアミノ酸をまんべんなく摂取することが鍵
- ビタミンやミネラル等の補酵素の摂取も重要
- セロトニン不足以外にも、様々な原因でうつ症状が発症する。
という感じになります。
うつ症状の原因はセロトニン不足という見方が依然強いですが、その原因は多岐にわたります。
ですので、セロトニン不足でない人が抗うつ薬などのセロトニン濃度をあげる精神薬を飲んでも効果が無いばかりか、副作用や薬物依存、離脱症状などで苦しむことにもなりかねません。
あなたが「セロトニン不足からくるうつ病」という確証が得られない限りは、安易に抗うつ薬などを服用するのは控えた方がいいでしょう。
まずは、セロトニン不足以外のうつの原因を病院などで検査して特定すると共に、プロテインやサプリメントなどで十分な栄養補給をすることをオススメします。
あなたに何の栄養が足りていないのかは、うつぬきやのコンサルティングでアドバイスしていますので、よろしければご利用下さい。