最近では、「うつけしごはん」や「テケジョ」(鉄欠乏女子)などの書籍が登場したおかげで、うつと鉄分の関係性が公に知られるようになってきました。
まだこれらの書籍を読んだことがない方や、読んでもイマイチ理解できなかったなど、うつと鉄分の関係性をもっと詳しく知りたいかたも多いですよね。
今回は、うつ症状と鉄分の関係性と、鉄不足の判断の仕方、鉄分を補給できるオススメの食品をご紹介します。
この記事の内容は、以下の動画でも解説しています。
https://youtu.be/6jdd8p1fLFk
https://youtu.be/QjHeF3w97SY
https://youtu.be/PqHupErg2YU
目次
うつと鉄分との関係とは?
鉄分と聞くと、赤血球や血液などで使われるイメージが強いですよね。
一見、うつとは関係ないように思える鉄分ですが、実は深く関連しています。
その理由が
- 脳の神経伝達物質の合成に補酵素として必要
- 鉄不足、貧血はパニックやうつを引き起こす
です。
ここ最近、「うつけしごはん」などの書籍によって、ようやく鉄分の重要性が指摘されるようになってきました。
しかし、「鉄を飲めばうつが治る」と勘違いして鉄の過剰摂取をしてしまっている方も見受けられます。
鉄単体をいくら補給しても、うつ症状はよくなりません。
これは、鉄が脳の神経伝達物質を合成する際の「補酵素」として働くためです。
あくまで補酵素ですので、他の栄養も必要になります。
このあたりの、うつと鉄の関係性を詳しく見てみましょう。
鉄分は脳の神経伝達物質の合成に不可欠
まずは、鉄分が脳の神経伝達物質とどう関わっているのかを見てみましょう。
上の図は、タンパク質から脳の神経伝達物質である、GABAやドーパミン、セロトニンなどに分解、合成されるまでの過程を表したものです。
タンパク質を摂取すると、胃酸によってL-グルタミンや、L-フェニルアラニン、L-トリプトファンに分解されます。
そこから、各種栄養素の力を借りて、脳の神経伝達物質に合成されていきます。
例えば、図右側の、L-トリプトファンから5-HTPに合成するには、葉酸、鉄、ナイアシンが必要です。このように、間に書かれている栄養素が、合成に必要となる栄養素になります。
ここでよく見てほしいのですが、L-トリプトファンから脳の神経伝達物質であるセロトニンに合成されていますよね。
うつの原因は、この「セロトニンの分泌不足である」ということは聞いたことがあるかと思います。
また、L-フェニルアラニンから合成出来る「ドーパミン」や「ノルアドレナリン」の不足も、うつ症状を引き起こすと言われています。
これらの神経伝達物質を合成する際には、初期の合成段階で鉄が欠かせません。
つまり、セロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンを合成するには、「Fe」つまり鉄が必要になるのです。
鉄分はうつと関係ないように思えますが、こんなに重要な役割があったのですね。
鉄欠乏貧血が、うつやパニックを引き起こす
では、この鉄分が体内で少なくなると、どのような影響があるのでしょうか。
上述したように、鉄分は脳の神経伝達物質である、セロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンの合成に不可欠です。
この鉄が足りないと、これらの神経伝達物質が合成出来なくなり、分泌量が著しく減ってしまいます。
そうすると、うつ症状やパニック、イライラなど、感情をうまく抑えられなくなったり、気分が落ち込んだりしてしまいます。
他にも、酸素を運ぶヘモグロビンが減ってしまうことで、めまいなどの体調不良を起こすこともあります。
このように、鉄不足がうつやパニックの原因とされているのはこのためなのです。特に、女性は月経や出産によって鉄不足になりやすいと言われています。
女性のうつ症状は、この鉄不足から来ている場合がほとんどですので、鉄分を補給すればうつ症状の改善が見込めます。
女性は鉄不足になりやすい
鉄不足が深刻なのは、男性よりも女性です。女性は、月経が毎月ありますので、定期的に血液と鉄分が体外に流れ出てしまいます。
そして、「自身が貧血である」ことに気がついていない女性が多いのです。
2003年の国民健康・栄養調査の結果では、月経(生理)を有し、妊娠・出産を経験する年代の女性では、ほぼ3人に1人が潜在的鉄欠乏貧血といわれています。
潜在的鉄欠乏性貧血とは、一般的な血液検査では「貧血の可能性無し」と言われているのにも関わらず、体内の貯蔵鉄である「フェリチン」が低いために、怪我や月経などですぐに貧血となってしまう状態です。
普段は貧血がなく、検査でも異常が見つかりにくいので、貧血という自覚がないのが問題です。
貧血が酷くなると、更年期障害のような症状が出たり、月経前不快気分症候群(PMS)などに発展したりと、様々な悪影響が起こります。
女性の場合は、日頃から鉄分を十分に補給し、フェリチン値が適正範囲にある事を、定期的に血液検査で確認するようにしましょう。
鉄不足の判断はフェリチン値が重要
貧血を防ぐには、体内に貯蔵されている貯蔵鉄(フェリチン)の値が基準値内に収まっていることが理想です。
貯蔵鉄が十分にあると、鉄分が足りていなかったり、怪我をしたりして血が足りなくなった場合に、貯蔵鉄を使って貧血を予防してくれます。
このように、貯蔵鉄が十分にあると、血液中の赤血球濃度や血清鉄の濃度を安定させることが出来ます。
潜在的鉄欠乏性貧血とは、この貯蔵鉄(フェリチン)が減少してしまうことで、月経や出産、怪我などで出血すると即座に貧血に陥ってしまう隠れ貧血の事を指しているのです。
https://blogs.yahoo.co.jp/dentalponcho/39565069.html
上図は、左から「正常な状態」、「貯蔵鉄が減少した潜在性鉄欠乏性貧血の状態」、「血清鉄と貯蔵鉄が減少した鉄欠乏性貧血1」、「これに赤血球の減少が加わった鉄欠乏性貧血2」、「さらに組織鉄が減少した鉄欠乏性貧血3」を表したものです。
一般的な貧血の判断では、軽度から中度にまで貧血状態にならなければ、貧血と診断されません。それだと、この状態は図でも分かるように重度の一歩手前か、もう重度の貧血状態なのです。
つまり、健康診断で貧血と診断された場合は、もう重度の貧血状態だと思って頂いて構いません。この場合は積極的に鉄分を補給するようにしましょう。
そして、貧血を防ぐには、貯蔵鉄であるフェリチンの値が十分にある事が、貧血予防に重要な役割を果たしているのです。
フェリチン値の適正値は人によって様々
この貯蔵鉄の値であるフェリチン値ですが、適正な値は人によって違います。
例えば、男性の場合なら17.0~291.5 ng /mL、女性の場合なら、6.4~167.1 ng /mLが適正範囲と言われており、大きな幅が開いていることが分かります。
これは、年齢や性別、体格、栄養素の消費状態などで決まりますので、自身の適切なフェリチン値は病院の血液検査で調べて貰いましょう。
フェリチン値を調べる血液検査は、健康保険が適用されないので、全額実費となります。金額は病院によって異なりますので、詳しくは病院にお問い合わせ下さい。
また、こちらでもフェリチン値の血液検査を行ってくれる病院をご紹介しております。詳しくは、オーソモレキュラー療法特別割引会員のページをご覧下さい。
鉄分の種類、ヘム鉄と非ヘム鉄の違い
鉄分には、動物性のヘム鉄と植物性の非ヘム鉄があります。
レバーなどに含まれているのはヘム鉄で、吸収が良いという特徴があります。また、ほうれん草などに含まれているのは非ヘム鉄で、吸収率が悪いという特徴があります。
鉄分が多く含まれている食品を紹介する前に、ヘム鉄と非ヘム鉄の違いと、吸収率を理解しておきましょう。
ヘム鉄
ヘム鉄は、動物性由来の鉄分です。吸収されにくい鉄をタンパク質でコーティングすることにより、非ヘム鉄よりも吸収率が高くなっているのが特徴です。
ヘム鉄の特徴
- 動物のレバーや赤身の肉に多く含まれている
- 非ヘム鉄よりも吸収率が高い
- お茶に含まれるタンニンなどの鉄阻害要素の影響を受けにくい
非ヘム鉄
非ヘム鉄は、何もコーティングされていない鉄そのものです。ほうれん草などの植物に多く含まれています。
貧血と診断された場合の鉄剤も、この非ヘム鉄が処方されます。
他の鉄にくらべ、吸収率が著しく悪く、胃の不快感や吐き気などの症状が出やすいのが特徴です。
非ヘム鉄の特徴
- ほうれん草などの植物に多く含まれている
- 腸内で一度変換しないと吸収出来ないため、吸収率が非常に悪い
- 大量に摂取すると、胃の不快感や吐き気を伴う場合がある
- お茶に含まれるタンニンなどの鉄阻害要素の影響を受けやすい
ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収率の違い
ヘム鉄と非ヘム鉄は、同じヘムという言葉が使われているのに、なぜ吸収率に差が出るのでしょうか。
この違いを、図を使って詳しく説明します。
上図は、非ヘム鉄とヘム鉄の吸収の違いを表したものです。
ヘム鉄は、そのまま吸収されるのに対し、非ヘム鉄は一度変換されてから吸収されています。
このため、非ヘム鉄のほとんどが吸収されずに体外へ排泄されてしまいます。
腸は、二価(Fr++)の鉄しか吸収することが出来ません。ですので、二価の鉄で存在するヘム鉄はそのまま吸収することが出来るのです。
逆に、非ヘム鉄は三価(Fe+++)の状態で安定しています。この三価の鉄はそのままでは吸収出来ないので、一度二価(Fe++)に変換して吸収します。
また、三価である非ヘム鉄はお茶などに含まれる苦み成分「タンニン」の影響を受けやすく、タンニンとくっついて「タンニン鉄」に変わってしまいます。
このタンニン鉄は吸収されないまま体外へ排泄されてしまいます。
このような影響の違いから、非ヘム鉄とヘム鉄は、同じような名前でも、全く吸収率が異なるのです。
鉄分が多く含まれている食品は?
上述したように、鉄分には大きく分けて2種類あります。
せっかく摂るなら、吸収率が高い方を摂りたいですよね。
ですので、鉄分の補給を意識するときは、動物性のヘム鉄を摂取することがオススメです。
ヘム鉄は、レバーや赤身の肉、赤身の魚などに多く含まれています。
ヘム鉄が多く含まれている食品
- 豚のレバー 100gあたり13mg
- あさり 40gあたり15.1mg
- かつおの刺身 100gあたり1.9mg
これらの食べ物を、できるだけ毎日多く摂るようにしましょう。
もし、レバーや魚など、毎日大量に食べられない!というかたは、サプリメントで鉄分を補給するのもアリです。
この場合は、うつに鉄分は本当に効くのか? 分子整合栄養医学の観点から鉄とうつの関係と、オススメサプリを紹介!でサプリメントを紹介していますので、参考にしてみて下さい。
うつに鉄分は本当に効くのか? まとめ
以上が、うつと鉄分の関係性と、フェリチン値の重要性、鉄分を多く含む食品に関してでした。
ここまでの流れをまとめると・・・
- 鉄分は、うつと関係が深い
- 脳の神経伝達物質を合成する補酵素として必要
- 鉄不足は、うつやパニックを引き起こす
- 女性は貧血になりやすい
- 貧血のチェックはフェリチン値が重要
- 鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄がある
- ヘム鉄は吸収率が高く安全性も高い
- 非ヘム鉄は吸収率が悪く、胃の不快感などの不調が起こりやすい
- 鉄分の補給は、ヘム鉄がオススメ
- ヘム鉄は、レバーや赤身の肉に多く含まれている
というような感じです。
鉄分不足から来るうつやパニックに関しては、そのほとんどが女性です。
男性は貧血になる事が少ないので、鉄分不足以外の原因でうつを発症している可能性が高いでしょう。
ですので、男性の場合はむやみやたらに鉄を補給せず、貧血かどうかを血液検査で確かめてから行って下さい。
うつには、鉄分不足以外にも様々な原因があります。鉄分不足だけにとらわれず、他の原因がないかも探してみて下さい。