ピーナッツがうつ症状の改善に効果的と書かれているのを見たり、誰かから聞いたことがありませんか?
もしかしたら、あなたもこれを信じて毎日ピーナッツを食べているかもしれません。
しかし、ピーナッツを食べていても、うつ症状の改善を感じたことがある人はほぼ居ないのではないでしょうか。
なぜ、うつに効果があると言われているピーナッツを食べていても効果を感じないのか、その理由と原因を詳しく解説します。
目次
ピーナッツがうつに効くって本当?
ネット上には、ピーナッツを食べるとうつにいい、と書かれている記事をよく見ますが、実際の所本当なのでしょうか。
記事に書かれている内容をみると、ピーナッツにはセロトニンの材料となる「トリプトファン」が含まれており、トリプトファンを摂取することでセロトニンの分泌を促す、というものです。
もし本当なら、ピーナッツを食べればうつ症状が改善していくはずですよね。
結論から先に言ってしまうと、トリプトファンを摂取しただけではうつは改善しにくいと言えます。その理由としては、トリプトファンだけを摂ってもうつ症状の改善には効果が無く、ピーナッツに含まれる栄養素のほとんどが脂質だからです。
ピーナッツに含まれる栄養分
分量
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カロリー (kcal) 585 |
脂質 49 g | トリプトファン 270mg |
飽和脂肪酸 9 g | カルシウム 50mg |
多価不飽和脂肪酸 15 g | 鉄 1.7mg |
一価不飽和脂肪酸 24 g | マグネシウム 200mg |
ナトリウム 2 mg | ビタミンB6 0.5mg |
カリウム 770 mg | |
炭水化物 20 g | |
水溶性食物繊維 0.3 g | |
不溶性食物繊維 7 g | |
タンパク質 27 g |
表は、ピーナッツを100g食べたときの栄養成分です。脂質、炭水化物、タンパク質が多く含まれていますが、その中で最も多いのが脂質です。100g中49gと、ほぼ半分を脂質が占めています。
そして、うつ症状の改善に良いとされているトリプトファンは、100g中に270mg含まれています。
このトリプトファンの量は、他の食品に比べれば確かに多く含まれているのですが、様々な食品にトリプトファンが含まれているので、ピーナッツを食べなくても不足することはないと言えます。
他の食品には、どのくらいのトリプトファンが含まれているのか、含有量が多い食べ物を見てみましょう。
トリプトファン含有量が多い食べ物(可食部100gあたり)
白米 | 82mg |
玄米 | 94mg |
パスタ(乾麺) | 140mg |
そば(乾麺) | 170mg |
鮭 | 250mg |
カツオ | 310mg |
マグロ赤身 | 270mg |
豚ロース | 280mg |
鶏むね肉 | 270mg |
木綿豆腐 | 98mg |
豆乳 | 53mg |
私達が日常的に食べている白米や豆腐、パスタやそばにも、トリプトファンは多く含まれています。特に多いのが、魚や肉などの動物性タンパク質です。
表では、どれも200mgを超えており、多いものでは300mg以上含まれています。
ピーナッツは、100gあたり270mgのトリプトファンが含まれているので、マグロの赤身を100g食べても同じ量を摂取出来ますね。
ですので、ピーナッツを大量に食べなくても、パスタやそばなど、日常的に食べるものでトリプトファンは十分に摂取出来ているのです。
トリプトファンだけ摂取してもうつ症状は改善しない
上述したように、トリプトファンは日常食べているものに多く含まれています。ですので、基本的にトリプトファンが不足することはありません。
ピーナッツだけが異常に取り上げられていますが、ピーナッツを食べなくても十分な量のトリプトファンを摂取しているのです。
それでは、なぜトリプトファンを日常的に摂取しているにも関わらず、うつ症状が発症してしまうのでしょうか。
それは、うつの原因はセロトニンだけではないからです。
脳の神経伝達物質は、興奮系のドーパミン、抑制系のGABAがあります。この2つのバランスを調節しているのがセロトニンです。
シーソーで例えると下図のように、支点の役割を担っています。
うつ症状を発症している方は、セロトニンだけでなく、ドーパミンやGABAの分泌量も減っています。ですので、セロトニンだけを補っても、肝心のシーソーのバランスが整いません。
うつ症状を改善するには、これらの神経伝達物質の材料となる栄養素をまんべんなく摂取することが重要です。
この神経伝達物質の材料となるのが、「タンパク質」なのです。
ピーナッツはほとんどが脂質
ピーナッツにもタンパク質が含まれていますが、その量は100g中27gと、多いとは決して言えない量です。それに比べ、脂質の量は、100gあたり49gと、およそ半分も占めています。
この脂質は、タンパク質とともに、うつの改善において非常に重要となる栄養素です。
脂質には種類があり、多価不飽和脂肪酸であるリノール酸、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸を多く含んでいます。
一価不飽和脂肪酸のオレイン酸は、体内で飽和脂肪酸を元に作り出すことが出来るので、不足することはありません。
もう一つのリノール酸は、必須脂肪酸の1つで体内では作り出すことが出来ない脂肪酸になります。
リノール酸の取り過ぎは、慢性炎症の原因となる
リノール酸は、オメガ6系脂肪酸といわれ、摂取すると生体内のさまざまな生理活動を調節したり、影響を与えたり、活性化したりするホルモンや神経伝達物質に変換されます。
その主な利用法が、体内でのエネルギー源と、炎症促進作用、炎症抑制作用です。
リノール酸(オメガ6系脂肪酸)の取り過ぎによって、炎症抑制作用よりも炎症促進作用が強まってしまうと、慢性炎症の原因となるのです。
炎症反応自体は、体にとって必要な反応なので避けることは出来ません。風邪を引いたり怪我をしたときなど、炎症を起こして体を守ります。必要なときに炎症反応を起こせないと、免疫力が落ちてしまって命を落としかねません。
問題なのは、炎症を起こした後に、速やかに炎症を抑える働きを引き出せないことです。アトピーやリウマチなど、慢性的に痛みや肌荒れが治らないのは、この炎症を抑える働きが弱まってしまっているからです。
ですので、慢性的な炎症があったり、うつ症状などで脳に炎症があるような場合は、オメガ6系脂肪酸の摂取は控えていくことが望ましいと言えます。
そして、この炎症を抑えるためには、炎症抑制作用のあるオメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸のバランスが重要になります。
脂質はバランスが重要
オメガ3系脂肪酸は、オメガ6系脂肪酸と同じく、体内では作り出すことが出来ない必須脂肪酸です。
オメガ3系脂肪酸は、主に魚アマニ油やエゴマ油、シソ油、魚油などに含まれており、魚油にはDHA・EPAが含まれているとして有名ですよね。
このオメガ3系脂肪酸は、オメガ6系脂肪酸と違い、体内での利用法はエネルギー源と炎症抑制作用です。炎症促進作用はありません。
ですので、オメガ6系脂肪酸をエネルギー源に起こした炎症を、オメガ3系脂肪酸のエネルギーで速やかに鎮静化出来ることがベストと言えるでしょう。
この2つの脂肪酸は、細胞膜に取り込まれる部位が同じなので、同じ場所の取り合いをしています。炎症を抑えるためには、この2つの油のバランスを変えてあげることがポイントです。
2つの脂肪酸は、必須脂肪酸なのでどちらかを排除することは出来ません。食事から摂取した比率が、そのまま体内の脂肪酸比率になってしまうため、意識的にオメガ3系脂肪酸を摂る必要があります。そして、意識的にオメガ6系脂肪酸を避けることも重要です。
ピーナッツには、オメガ6系脂肪酸が多く含まれているので、足りない場合を除いて意識的に排除すべきでしょう。
「必須脂肪酸なら、摂取しないといけないのでは?」 と思うかもしれませんが、現代の食事では、このオメガ6系脂肪酸を想像以上に摂取しています。
米油、サラダ油、ベニバナ油、大豆油、コーン油などはピーナッツと同じオメガ6系脂肪酸で、炒め物や揚げ物に必ずと言っていいほど大量に使われています。
逆に足りないのは、オメガ6系脂肪酸です。慢性炎症を抑えるには、オメガ3系脂肪酸を多く摂るよう心がけましょう。
一日一回はアジやサバ、サンマなどの青魚を食る、足りない分はDHA・EPAのサプリで補うのがオススメです。
ピーナッツの脂質は利用効率が悪い
ピーナッツに含まれる脂質は、炎症反応以外にも体内のエネルギー源として利用出来ます。しかし、脂質にも種類があり、ピーナッツに含まれている脂質はエネルギー効率が悪い脂肪酸になります。
脂肪酸は、分子を構成している鎖の長さから、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の3つに分かれます。
ピーナッツに含まれているオレイン酸やリノール酸は、長鎖脂肪酸になります。
うつ症状の改善には、エネルギー源を糖質から脂質に切り替えることが望ましいのですが、ピーナッツに含まれている長鎖脂肪酸は、エネルギー源としては効率が悪いのです。
ONE養成講座4-6 脂質2より
図の中では、中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸が、エネルギーとして使われるケトン体やTCA回路と呼ばれるエネルギー生産の循環で消費されていく過程を表したものです。
中鎖脂肪酸は、少ない反応でミトコンドリアの膜に取り込まれるのに対し、長鎖脂肪酸はアミノ酸の一種であるカルニチンが無ければエネルギーとして使うことが出来ません。
カルニチンは、体内で10mgから20mgは合成出来るのですが、これは体内保有量20mgに対して少量なので肉や魚、乳製品などの食品から摂取する必要があります。
カルニチンを作るには、リジン、メチオニンなどの動物性タンパク質が原料となるほか、ビタミンC、ナイアシン、鉄、ビタミンB6などが補酵素として必要になります。
これら動物性タンパク質や補酵素が少ない場合は合成が抑制されてしまうので、カルニチンが生成できず、強いては長鎖脂肪酸をエネルギー源として使うことが出来ません。
うつ症状がある方は、炭水化物が主な食事になっており、動物性タンパク質や鉄、ビタミンB群などが不足している場合がほとんどですので、長鎖脂肪酸をエネルギー源として使うのは難しいでしょう。
ピーナッツを食べたらうつは改善する? 分子整合栄養医学の観点からピーナッツとうつの関係を解説!まとめ
以上が、ピーナッツがうつ症状の改善に役に立つのかどうかでした。
ここまでの流れをまとめると・・・
- ピーナッツに含まれる栄養は、脂質がほとんど
- トリプトファンはピーナッツ以外の食材から日常的に摂取出来ている
- トリプトファンだけを摂取しても、うつ症状の改善は難しい
- ピーナッツの脂質は、炎症促進作用がある
- オメガ6系脂肪酸と、オメガ3系脂肪酸のバランスが重要
- ピーナッツに含まれる脂質は、エネルギー効率が悪い
- ピーナッツは、うつの時にはあまり摂取しない方が良い
という感じになります。
ピーナッツには、必須脂肪酸の1つであるオメガ6系脂肪酸が含まれているので、これが足りない方は補給減として摂取する分には良いと思います。
むしろ、現代の食事ではオメガ6系脂肪酸を取り過ぎている傾向があるので、このような方は意識的に避けた方が良いでしょう。
ピーナッツは、うつの改善に特にメリットはなく、体に良いとも悪いとも言えないというのが結論になります。
うつ症状があるひとは、慢性的な炎症状態に陥っている場合が多いので、DHA・EPAなどの炎症を抑える脂質を摂取することが望ましいです。
ただ、毎日魚を食べ続けるのはキツいと思いますので、足りない分はサプリメントなどで補いましょう。
どのサプリメントを摂取したら良いのかについては、うつ病の改善には何のサプリメント飲むといい? 分子栄養医学の観点からオススメのサプリを紹介!で詳しく解説していますので、参考にして下さい。