うつ病の原因は「セロトニンの分泌不足」と言われていますが、セロトニンを食事で増やす事は可能なのでしょうか?
うつ病の治療で用いられる抗うつ剤などは、このセロトニンを増やしてくれる作用があるとされ、様々な薬が開発されています。
もし、食事でセロトニンの濃度を増やす事が出来るなら、これら薬は飲まなくて済むようになりますよね。
今回は、どのような食べ物を食べればセロトニンの濃度を増やす事が出来るのか、そしてうつ症状を治すにはどのような栄養素が必要なのかについて詳しく解説します。
目次
セロトニンを増やしてくれる食事とは?
うつ病は、「心の病気」や「脳の病気」とも言われ、その原因は脳の神経伝達物質の1つである「セロトニン」の分泌量が低下していることだと言われています。
そして、現在の薬物治療のアプローチとしては、セロトニンの濃度を上げてくれる作用がある「パキシル」など、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ剤を服用することが一般的となっています。
この事からも分かるように、セロトニンの濃度とうつ病は非常に深い関係がある事が分かります。
では、このセロトニンは薬だけでしか増やす事が出来ないのでしょうか? いえいえ、そんなことはありません。実は、食事などからでも増やす事が出来ます。
セロトニンを増やす食事を解説する前に、まずは「セロトニン」という物質がどんなものなのかを簡単に解説しておきますね。
脳の神経伝達物質の1つ、セロトニンとは?
セロトニンとは、脳の神経伝達物質の1つで、トリプトファンと呼ばれるアミノ酸から合成されます。
セロトニンは、感情や精神面、睡眠など人間の大切な機能に深く関係する三大神経伝達物質の1つです。セロトニンは別名「幸せホルモン」と呼ばれ、分泌されるとリラックスしたり幸せを感じたりする事から、メンタルに良いとされ、近年注目を集めています。
また、セロトニンから合成される「メラトニン」という神経伝達物質は、入眠や安眠などの睡眠の質とも深く関わっており、セロトニンの不足はメラトニンの不足にも繋がります。
不眠はうつ症状と深い関係があり、メラトニンが不足すると不眠などの症状が現れることから、うつとセロトニンは深い関係があるといわれているのです。
セロトニンを直接摂取しても、脳には取り込まれない
このように、セロトニンは心の安定に欠かせない神経伝達物質の1つです。
セロトニンの分泌不足がうつ症状の原因なら、セロトニンが多く含まれている食べ物を沢山食べたら、そのぶんだけセロトニンの濃度が上がってうつが治ると思いますよね。
でも、実際にはセロトニンをサプリや食事から補った所で、脳に直接届くわけではありません。
これは、血液脳関門と呼ばれるバリア機能があるため、脳に影響する物質がそのまま脳に取り込まれないようになっているのです。
脳に必要な神経伝達物質は、必要に応じて脳内で作る構造になっています。もし、仮に脳に影響を与える物質がそのまま脳に取り込まれてしまったら、意識障害や過呼吸などを引き起こし、最悪の場合は死に至ります。
ですので、脳の神経伝達物質を分泌させたいときは、脳の神経伝達物質を直接摂取するのではなく、その元となる材料を摂取する事が鍵と言えます。
つまり、セロトニンはトリプトファンというアミノ酸の一種から合成することが出来るので、トリプトファンを摂取すれば、セロトニンを増やす事が出来るということですね。
セロトニンの材料、トリプトファンが多い食べ物
前述したように、セロトニンをサプリや食事などで直接摂取しても、脳の神経伝達物質として使われることはありません。
セロトニンを分泌したいときは、この材料となるトリプトファンと呼ばれるアミノ酸を摂取することが鍵と言えるでしょう。
では、トリプトファンが多く含まれている食べ物にはどのような物があるのでしょうか。
実際に普段食べているものにどのくらいのトリプトファンが含まれているのかは、以下の表にまとめました。
トリプトファン含有量が多い食べ物(可食部100gあたり)
白米 | 82mg |
玄米 | 94mg |
パスタ(乾麺) | 140mg |
そば(乾麺) | 170mg |
鮭 | 250mg |
カツオ | 310mg |
マグロ赤身 | 270mg |
豚ロース | 280mg |
鶏むね肉 | 270mg |
木綿豆腐 | 98mg |
豆乳 | 53mg |
バナナ | 15mg |
牛乳 | 82mg |
ピーナッツ | 27mg |
ヨーグルト | 42mg |
よく、「うつ病の方はバナナやピーナッツを食べた方が良い」と言われていますよね。これは、トリプトファンが多く含まれているからなのです。
他にも、私達が日常的に食べている白米や豆腐、パスタやそばにもトリプトファンは多く含まれていますね。
トリプトファンは、特定の食べ物にしか含まれていないような気がしますが、実際は私達が普段食べているものに多く含まれています。
ですので、基本的にトリプトファンが不足することはありません。
特に多いのが、魚や肉などの動物性タンパク質です。表では、どれも200mgを超えており、多いものでは300mg以上含まれています。
生活する上で必要なトリプトファンの一般的な摂取量の目安は、体重1kg当たり2mg程度と言われています。これは、体重が50kgの場合はおよそ100mg程度にあたります。
上の表は可食部100g当たりのトリプトファンの量ですから、普通に考えて一日に100g以上は余裕で食べていますよね。つまり、パスタやそば、白米などを200g程度食べれば、一日に必要なトリプトファンは十分に摂取出来ているのです。
それでは、なぜトリプトファンを日常的に摂取しているにも関わらず、うつ症状が発症してしまうのでしょうか?
それは、うつの原因はセロトニンの分泌不足だけで無く、ドーパミンやGABA(ギャバ)などの脳の神経伝達物質も関係しているからです。また、これらはいくら材料があっても、ビタミンやミネラルが無いと脳の神経伝達物質に変えることが出来ません。
なぜ、トリプトファンを摂取していてもうつが治らないのか?
前述したように、セロトニンの材料となるトリプトファンは、私達が日常食べている物に多く含まれています。ですので、基本的にトリプトファンが不足することはありません。
では、何故トリプトファンを日常的に摂取していても、うつ症状を発症してしまうのでしょうか?
それは、うつの原因はセロトニンだけでなく、その他の脳の神経伝達物質の分泌量も減ってしまっているからです。
脳の神経伝達物質には、大きく分けて興奮系のドーパミンと抑制系のGABAがあります。この2つのバランスを調節しているのがセロトニンです。
シーソーで例えると下図のように、支点の役割を担っています。
このシーソーのように、3つのバランスが取れているときが最も調子が良くなる時です。これがどちらかに傾くと、自律神経のバランスが崩れ、イライラしたり不安になったりと、心身に様々な不調が現れます。
自律神経には、「交感神経」と「副交感神経」があり、交感神経は心拍数を上げたり気分を興奮させたりする、いわばアクセル役です。これは主に、ドーパミンやアドレナリンなどの興奮系の神経伝達物質が多く分泌されたときに交感神経が優位になります。
対して副交感神経は、リラックスしたり眠くなったりと、いわばブレーキのような役割をしています。これは、GABAやセロトニンなどの抑制系の神経伝達物質が多く分泌されたときに副交感神経が優位になります。
この交感神経と副交感神経は下図のようにヤジロベーのような関係になっています。
https://health.suntory.co.jp/professor/vol10/
このヤジロベーのバランスがどちらかに傾くと、自律神経が乱れてしまい、心身に不調が現れやすくなります。どちらもバランスがとれていて、1:1になっている時が最も調子が良く、理想とされています。
このシーソーのバランスを取っているのが、「セロトニン」になるのです。
そして、うつ症状を発症している方は、セロトニンだけでなくドーパミンやGABAの分泌量も減っています。ですので、セロトニンだけを補っても、肝心のシーソーのバランスが整いません。
これらの脳の神経伝達物質は、互いにバランスを取るように分泌されます。ですので、いくらトリプトファンを大量に摂取しても、すべてがセロトニンに変わるわけではなく、余分な栄養は尿や便で排泄されてしまうのです。
つまり、うつ症状を改善するには、トリプトファンやセロトニンだけに拘らず、これらの神経伝達物質の材料となる栄養素をまんべんなく摂取することが重要だといえるでしょう。
先ほどのトリプトファンが多く含まれている食べ物には、バナナやピーナッツ、そばや白米などがありましたが、これらは確かにトリプトファンの量が多いものの、その他の脳の神経伝達物質の材料となるアミノ酸や、ビタミン・ミネラルが極端に少ない食べ物です。
これとは逆に、脳の神経伝達物質の材料となるアミノ酸や、ビタミン・ミネラルが多く含まれているのが、肉や魚などの「タンパク質」なのです。
ですので、うつ症状を改善したいときに食べる食事は、肉や魚などのタンパク質が多めの食事がオススメです。
うつの克服は、脳の神経伝達物質の材料をまんべんなく摂取することが鍵
脳内のセロトニン濃度を高めたいときは、トリプトファンだけに拘らず、ドーパミンやGABAなど、他の脳の神経伝達物質の材料をまんべんなく摂取する事が重要です。
その為には、肉や魚などのタンパク質を積極的に摂取するようにしましょう。
なぜ、タンパク質と脳の神経伝達物質が関係あるのでしょうか。それは、肉を摂取すると、胃酸などで分解されてアミノ酸になり、このアミノ酸が脳の神経伝達物質の材料になるからです。
加えて、これらのアミノ酸から脳の神経伝達物質に合成するためには、ビタミンやミネラルが補酵素として必要になります。
ですので、肉だけを食べるのでは無く、補酵素となるビタミンやミネラルが含まれている野菜や海藻なども積極的に食べるようにしましょう。
このあたりの詳しい仕組みについては、少しややこしいので図を使って説明をします。下図は、タンパク質が脳の神経伝達物質に分解、合成されるまでの過程を表したものです。
まず、タンパク質(プロテイン)を摂取すると、いくつかの工程を経てアミノ酸に分解されます。脳神経伝達物質で重要なのは、「L-グルタミン」「L-フェニルアラニン」「L-トリプトファン」と呼ばれるアミノ酸です。
このアミノ酸は、ビタミンやミネラルを元に、神経伝達物質である「ドーパミン」や「セロトニン」「GABA」に合成され、消費されていきます。
これらの神経伝達物質は、互いにバランスを取りながら分泌されるので、どれか特定のアミノ酸を大量に摂取したとしても、特定の神経伝達物質が大量に分泌されるわけではありません。
ですので、トリプトファンだけを摂取するのではなく、脳の神経伝達物質の材料となるアミノ酸をバランス良く含んだタンパク質を摂取することが重要になるのです。
そして、アミノ酸から神経伝達物質に合成する時には、補酵素としてビタミンやミネラル等が必要になりますので、これらも同時に摂取するように心がけましょう。
例えば、表中のL-トリプトファンから5-HTPに合成する時には、葉酸、鉄、ナイアシンが必要になります。上述した「トリプトファンが多く含まれている食べ物」の栄養素を見てみると、バナナやピーナッツ、ヨーグルトなどはほとんど鉄分が入っていません。
鉄分が足りなければ、どれだけ食べたところでアミノ酸が神経伝達物質に合成されることはなく、そのまま体外に排泄されてしまいます。
これは、トリプトファンのサプリメントでも同じ事が言えます。トリプトファンをサプリメントで摂取しても、鉄分や葉酸、ナイアシンが無ければセロトニンには合成されません。
このように、特定の栄養だけを摂取しても、他の栄養素が足りなければ脳の神経伝達物質を合成することが出来ないのです。
うつを克服する為には、トリプトファンだけに拘らず、ドーパミンやGABAなどの神経伝達物質の材料であるタンパク質と、合成に必要なビタミンやミネラルをまんべんなく摂取することを心がけましょう。
脳の神経伝達物質を増やすオススメの食事
脳の神経伝達物質を合成するには、タンパク質の他に葉酸や鉄、ナイアシンなどのビタミンやミネラルが必要になる事は上記で解説しました。
これらのうち、タンパク質やビタミン、鉄分が大量に含まれているのが「牛肉の赤身」です。赤身の肉は、他にも正常な細胞を作るために必要な亜鉛やビタミンB12を大量に含んでいます。
赤身に含まれている鉄分は、「ヘム鉄」といわれ、吸収されやすい鉄分になります。ですので、鉄分補給には動物性の肉から摂る方が効果的です。
赤身の肉には葉酸やナイアシンなどのビタミンB群が足りないですが、これらが多く含まれている「レバー」を一緒に食べることでバランスが整います。
レバーにもタンパク質や鉄分、ビタミンB群が多く含まれているので、うつヌケやうつの予防に効果的と言えるでしょう。
また、カツオやマグロなどの赤身の刺身もオススメです。刺身は生で食べるので、加熱調理する牛肉やレバーなどに比べて栄養が流れ出にくいというメリットがあります。
是非、これら肉や刺身を、毎日の食事内容に取り入れてみて下さい。一食当たり100gから200gほど食べるのが理想です。
また、このような肉やレバーを食べるのが苦手な方は、サプリメントで補う方法もあります。具体的にどのような栄養を補給したら良いかについては、うつ病の改善には何のサプリメント飲むといい? 分子栄養医学の観点からオススメのiHarbサプリを紹介!で詳しく解説していますので参考にしてみて下さい。
うつの原因は、セロトニン以外にも様々
ここまで、うつの原因とされるセロトニンの濃度や脳の神経伝達物質の濃度を増やす食事について解説してきましたが、実はうつ病の原因はこれら以外にも様々あります。
具体的には、以下のような原因からうつ症状が現れることが分かっています。
- 質的な栄養失調
- ストレスによる腸内環境の悪化
- 鉄分不足
- 薬の副作用
- ピロリ菌の感染
- 腸カンジダの感染
- 糖質の取り過ぎ(糖尿病、血糖調節障害)
- 腸の不調
- 脳の慢性炎症
- ホルモン障害
- 更年期障害とPMS(月経前症候群)
- アジソン病、クッシング症候群、ストレスによる副腎疲労
- 甲状腺機能障害
- 認知症(アルツハイマー)
- 妊娠、産後うつ
これは、脳の神経伝達物質に限らず、質的な栄養失調であったり、ホルモンバランスの乱れであったり、細菌に感染していたりするなど、多岐にわたります。セロトニンの分泌不足と言われているのは、あくまで仮説の1つに過ぎません。
ですので、この記事で紹介してる食事をする前に、ご自身のうつ症状の原因が、セロトニン不足以外の可能性もあることを疑った方がよいでしょう。
これらうつ症状の具体的な原因については、うつ病が発症する原因とは? メカニズムと要因を解説で詳しく解説していますので参考にして下さい。
うつに良い食事内容とは? セロトニンを増やす食事のウソとホント まとめ!
以上が、うつとセロトニンの関係、トリプトファンや脳の神経伝達物質を増やす食事内容でした。
ここまでの流れをまとめると・・・
- セロトニンの分泌量が減るとうつ病になると言われている
- セロトニンは血液脳関門を通り抜けられないため、食事から摂取しても無意味
- セロトニンの濃度を増やしたいときは、その材料となるトリプトファンから
- トリプトファンは、日常食べている物に多く含まれており、不足することは無い
- トリプトファンが多く含まれている食べ物を食べても、セロトニンが大量に分泌されるわけでは無い
- セロトニンを増やしたいなら、他の脳の神経伝達物質のバランスが重要
- セロトニンやドーパミン、GABAはタンパク質を分解したアミノ酸を材料にして作られる
- 脳の神経伝達物質を合成するには、アミノ酸に加えてビタミン・ミネラルも重要
- うつ病にオススメの食事は、「赤身の肉」と「レバー」
- うつ病の原因は、セロトニンの分泌不足以外にも様々ある
という感じです。
うつ病の原因はセロトニンの分泌不足と言われていますが、これはあくまで「モノアミン仮説」と呼ばれる1つの仮説に過ぎません。
もし、セロトニンの分泌量が減っていたとしても、その原因は脳の病気などでは無く、タンパク質不足やビタミン・ミネラルが不足している「質的栄養失調」が原因の場合がほとんどです。
現代の食生活では、肉や脂身、コレステロールが心筋梗塞や動脈硬化の原因になるとして避けてしまいがちです。
そして、安くて量が食べられる白米やパン、うどんやラーメンなどの炭水化物に偏りがちな食生活をしています。
このような偏った食によって、脳の神経伝達物質を合成するのに必要なタンパク質やビタミン・ミネラルが不足し、うつ症状やパニック症状が引き起こされてしまうのです。
このような、質的栄養失調が原因のうつ症状を改善するためにも、肉や魚などは日頃から意識して食べるようにし、併せてサラダや海藻なども十分に食べるようにしましょう。