うつ病は心の風邪とも呼ばれ、100人中15人の割合で発症すると言われています。
うつ病になると働けなくなったり、収入や地位を失ったり、最悪の場合は離婚問題に発展したりと、人生において破滅的な影響を与える恐ろしい病気です。
このうつ病は、心の病気や脳の病気と言われていますが、食生活や食べ物が原因でうつ症状が引き起こされることがあるのでしょうか?
今回は、うつとパンの関係と、パンが与える心身の影響について詳しく解説します。
目次
パンを食べ続けるとうつ病になるのか?
調理の手間が無く、袋を空ければすぐに食べられるパン。忙しい現代の生活では、手軽にお腹を満たすことが出来る食事として、無くてはならない存在ですよね。
最近では、高級食パンとして一斤1,000円以上もする物も登場し、更にパンブームが過熱しつつあります。
そんな安くて美味しいパンですが、食べ続けた時の健康被害や、うつ病になる可能性はあるのでしょうか?
一部の記事では、パンにはうつ病に良いとされる「トリプトファン」が多く含まれており、パンを食べることでうつ病の改善が期待できると言われていることがあります。
トリプトファンは、脳の神経伝達物質の1つであるセロトニンの材料となるアミノ酸の一種です。
よく、うつ病は「セロトニンの分泌不足」などとも言われていますよね。ですので、この材料となるトリプトファンを摂取すれば、セロトニンが多く作られ、うつ病には良いと言われているのです。
しかし、逆に「パンを食べることでうつ病になる」と解説されている記事も見受けられます。
この理由としては、次の4つがあります。
- 小麦に含まれているグルテンが腸の粘膜を傷つけ、リーキーガット症候群を引き起こす恐れがある。リーキーガット症候群は、うつ病の原因になり得る。
- パンに含まれている炭水化物が血糖値の乱高下を招き、これが精神症状に影響しているという説
- リノール酸やトランス脂肪酸などの取り過ぎで、脳の慢性炎症を引き起こしてしまう可能性
- パンなどの炭水化物の取り過ぎで、タンパク質やビタミン・ミネラルが不足する「質的栄養失調」に陥ってしまう可能性
このように、パンはうつ病に良いとされる説と、悪いとされる説が唱えられているのです。
では、どちらが正しいのでしょうか?
分子整合栄養医学の観点からみると、「パンを食べ続けるとうつ病になる」と言えるでしょう。この理由は上記4つの理由と同じです。
これらの理由やメカニズムを、もう少し詳しく解説しましょう。
その不調、グルテンによる遅発型アレルギー症状かも
頭が重い、肩こり、疲れがとれない、集中できない、メタボ、糖尿病、肌荒れ、不眠、生理不順、ボケ、食事のあとの下痢、食べた後になんだか調子が悪くなる・・・。
もしかしたら、あなたにも当てはまる症状があるかもしれません。
このような症状をお医者さんに言っても、医者からは「特に身体に異常はありません。ストレスはなるべく溜めないようにして下さい」と言われたり、いい加減な場合は「うつ病」と診断されて精神薬が処方されたりします。
そして、精神薬など色々な薬を飲んだり、漢方やサプリメントを試しても一向に良くならず、対処法も見当たらない。
挙げ句の果てに、「今の状態が自分の普段の状態なんだ」と治療を諦めてしまった持病はありませんか?
その不調の原因は、もしかしたら「毎日のパン」にあるかもしれないのです。
その理由が、パンなどの小麦食品に含まれている「グルテン」と呼ばれるタンパク質が引き起こすアレルギー症状です。
アレルギー症状には、摂取後わずか数分のうちに症状が現れる「即時型」と、時間が経ってから症状が現れる「遅発型」があります。
グルテンによるアレルギー症状は「遅発型」なので、人によっては少量では発症しない場合がありますし、摂取後、数日が経ってから症状が現れることもあります。ですので、原因不明の体調不良や精神症状は、小麦に含まれているグルテンによる影響かもしれないのです。
「いやいや、私にはアレルギー症状はありません」と思っていても、血液検査をしてみたら意外にもアレルギー反応がある場合もあります。自己判断は禁物です。
また、グルテンは消化されにくいという特徴があり、腸の粘膜を傷つけ、リーキーガット症候群と呼ばれる症状を生みだすといわれています。
リーキーガット症候群は、腸の粘膜に小さな穴が空いてしまい、そこから栄養が血管内に漏れてしまう症状のことです。こうなると、腸は十分に働けず、消化と吸収の作業が妨げられてしまい、グルテンの消化も進まなくなります。
このように、毎日パンを食べ続けることによって、逆に体調不良や精神疾患を引き起こしかねないのです。
現代の食事では、パン以外にもラーメンやパスタ、うどん、お菓子、ケーキ、ピザなど小麦粉が大量に使われた食品があふれています。知らず知らずに、グルテンを大量に摂取しているのが現代人の食生活です。
もし、このような小麦食品や、パンを日常的に食べているなら、その不調はパンや小麦食品に含まれているグルテンの仕業かもしれません。
不眠症やうつ病、不定愁訴は隠れ低血糖が原因だった!
パンの主成分はデンプンであり、摂取すると体内で糖質に変わります。このような食品は炭水化物と呼ばれ、私達の体には無くてはならない三大栄養素のうちの1つです。
しかし、パンだけでお腹いっぱいにするなど偏った食生活や、炭水化物、糖質の取り過ぎは血糖コントロール障害を引き起こし、これがうつ症状の発症の原因となるのです。
血糖コントロール障害とは、次の図のように、空腹時血糖は正常値に収まっているにも関わらず、食べた直後にだけ大幅に血糖値が上昇し、その後一気に急降下する現象のことです。
人によっては、この急降下したときに低血糖にまで陥ってしまう人もいます。
https://style.nikkei.com/article/DGXNASFK2400Y_U2A720C1000000/
これらは別名で「血糖値スパイク」や「隠れ低血糖」などと呼ばれている場合もありますが、全部一緒の現象を指しています。
では、なぜこのような血糖値の乱高下がうつ症状に繋がるのでしょうか? それは、血糖値をコントロールするホルモンは、脳の神経伝達物質と同じだからです。
血糖値のコントロールには、大きく分けて血糖値を上げるホルモンと、血糖値を下げるホルモンがあります。
血糖値を下げるホルモンは、インスリンというホルモンだけですが、血糖値を上げるホルモンは、アドレナリンやグルカゴン、コルチゾールなどの種類があります。
血糖値コントロール障害の仕組みとしては、人が甘い物を食べたとき、急激な血糖値の上昇に対して、体は血糖値を下げるためにインスリンというホルモンを大量に分泌します。
そして、インスリンが効き過ぎてしまうと、今度は血糖値が急降下して低血糖に陥ってしまうのです。
低血糖は意識の喪失など命に関わる事態なので、体は防御反応として血糖値を上げるホルモン(アドレナリン、グルカゴン、コルチゾール)などを大量に分泌します。
アドレナリンなどのホルモンは、交感神経を高める作用があるので、大量に分泌されるとイライラしたり、汗をかいたりします。甘い物や炭水化物を多く食べている人はキレやすいというのも、これが原因です。
そして、これらインスリンやコルチゾールなどは、脳の神経伝達物質と同じ材料を元に作られており、甘い物や炭水化物を食べれば食べるほど、これら材料が使われてしまいます。
この結果、心の安定に必要なセロトニンやドーパミン、GABAなどの脳の神経伝達物質の合成が滞ってしまい、うつ症状に発展してしまうのです。
ですので、心の安定のためには血糖がなるべく安定していることが重要になります。
このためには、精製された糖質やパンなどの炭水化物はなるべく避けることが望ましいと言えるでしょう。
悪い油の取り過ぎがうつの原因に!
炭水化物や甘い物の取り過ぎと同じく、悪い油の取り過ぎもうつの原因となります。
悪い油とは、ジャンクフードなどに使われているトランス脂肪酸が多い油や、酸化した油、慢性炎症の原因となるリノール酸が多い油です。
特にパンでは、トランス脂肪酸が多い「マーガリン」や「ショートニング」、「ファットスプレッド」や「サラダ油」などが多く使われています。
これらの原材料は植物油脂ですが、常温で液体の油を固体に変えるために水素添加されて生成されます。この過程でトランス脂肪酸が多くなってしまうのです。
トランス脂肪酸を取り過ぎると、心筋梗塞などの動脈硬化やガンなどの危険性が高くなることが分かっています。
特に、食パンなどにマーガリンを塗って食べたりすると、総じてトランス脂肪酸の摂取量が多くなりますので、このような疾患にかかる可能性が高くなると言えるでしょう。
また、油脂類には、ラードやバターなど常温で固まる脂や、サラダ油などの常温で液体の油など様々な種類の油がありますが、これらの中でも特に注意したいのが、サラダ油や大豆油、コーン油や紅花油などのリノール酸が多く含まれている油です。
これらの油に多く含まれているリノール酸は炎症促進作用があり、摂取量が多いと慢性炎症に繋がってしまいます。
慢性炎症は脳にも影響し、脳の慢性炎症がうつに繋がっている可能性が示唆されるようになってきました。ですので、脳の慢性炎症を引き起こさないためにも、悪い油を取り過ぎないことが重要です。
リノール酸が多く含まれている油はオメガ6系脂肪酸とも呼ばれ、サラダ油や大豆油、コーン油や紅花油など、様々な油に多く含まれています。
これらは安く大量に製造できるため、外食やお惣菜の揚げ物などに必ずと言っていいほど使われています。特にパンでは、カレーパンや揚げパンなどの油であげたパンがありますので、これらには大量のリノール酸が含まれています。
このようなオメガ6系脂肪酸は、摂取すると体内でエネルギーとして使われる以外に、炎症を促進したり、抑制したりする作用があります。
しかし、そのほとんどが炎症を促進するアラキドン酸に変換されてしまうため、リノール酸が多い油を取り過ぎると、慢性炎症の原因になってしまうのです。
パンには、トランス脂肪酸に限らず、リノール酸が多く含まれた油で調理された物が多くあります。これらを食べ過ぎることによって、脳の慢性炎症の原因となり、強いてはうつ症状が発症してしまうのです。
ちなみに、これとは逆に魚に多く含まれるDHA・EPAなどのオメガ3系脂肪酸には、炎症を抑える働きがあります。
リノール酸などのオメガ6系脂肪酸で発生した炎症を、DHA・EPAなどのオメガ3系脂肪酸で速やかに抑えることがベストと言えるでしょう。
オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸は、必須脂肪酸と呼ばれ、どちらも摂取しなければならない油です。
これらは細胞に取り込まれる部位が一緒のため、常に場所の奪い合いをしています。ですので、これら油のバランスを変えてあげる事がポイントです。
意識的にオメガ6系脂肪酸を避け、積極的にオメガ3系脂肪酸を摂取するなどして、バランスを整えてあげましょう。
質的栄養失調がうつを引き起こす!
日常的にパンを食べてる際のうつ病の原因として可能性が高いのが、「質的な栄養失調」です。
質的栄養失調とは、お腹いっぱいに食べていても、脳の神経伝達物質の合成や分泌に必要な栄養素が足りなくなってしまう新型栄養失調のことです。
現代社会の食生活は、パンや白米、うどんやラーメンなどの炭水化物に偏った食生活をしています。
このような炭水化物に偏った食生活では、脳の神経伝達物質の合成に必要なタンパク質やビタミン・ミネラルが欠乏し、心の安定に必要なセロトニンやドーパミン等の分泌量が低下してうつ症状が引き起こされてしまうのです。
脳に必要な栄養素と言えば、「ブドウ糖」や魚に多く含まれている「DHA・EPA」などが有名ですが、これら栄養素よりも、もっと重要な栄養素が実は「タンパク質」なのです。
なぜ、タンパク質がうつ症状や脳機能と関係しているのでしょうか?
それは、タンパク質を分解してできた「アミノ酸」が、セロトニンやドーパミン等の脳の神経伝達物質の材料になるからです。
次の図は、タンパク質を分解してできたアミノ酸から、脳の神経伝達物質までに合成される過程を表した物です。
タンパク質を摂取すると、胃酸によって様々なアミノ酸に分解されます。
そのうち、脳の神経伝達物質で重要なのは、「L-グルタミン」「L-フェニルアラニン」「L-トリプトファン」と呼ばれるアミノ酸です。
これらのアミノ酸は、ビタミンやミネラルの力を借りて、セロトニンやドーパミン等の様々な脳の神経伝達物質に合成され、消費されていきます。
よく、うつ病の原因はセロトニンの分泌不足や、ドーパミン・ノルアドレナリンの分泌不足などと言われていますよね。
実は、これら脳の神経伝達物質はタンパク質を元に作られていたのです。
ですので、パンや白米、うどんやラーメンなどの炭水化物が多い食生活では、タンパク質やビタミン・ミネラルが不足し、心の安定に必要な脳の神経伝達物質の分泌が低下するのは当然と言えます。
このような食生活や質的栄養失調によって、うつ症状は引き起こされていたのです。
女性は鉄不足がうつやパニックの原因に
女性の場合は、鉄不足もうつやパニックの原因になります。
鉄は、脳の神経伝達物質の合成に必要な栄養素なので、鉄分が不足することでドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンの合成が滞ってしまい、うつやパニックの原因となるのです。
特に、女性は毎月月経があるので、血液と一緒に鉄分やタンパク質が流れ出てしまいます。適切に鉄分を補給していかないと、必ず鉄不足に陥ってしまいます。
また、妊娠や出産を経験すると、赤ちゃんに栄養を持って行かれてしまうので、極度の栄養欠乏に陥ります。産後うつなどは、このような栄養欠乏が1つの原因なのです。
ですので、女性の場合は男性よりも栄養の消費が多いので、普段の食生活や栄養補給は積極的に行うようにして下さい。
鉄玉などで鉄分を補給したり、ヘム鉄などのサプリメントで補ってあげる事も有効です。
グルテンフリー食を実践しよう!
ここまで、パンや小麦食品がうつを引き起こす原因について解説してきました。このような理由から、パンでトリプトファンを補ってあげるという行為が、いかにうつ病に逆効果であったかが分かって頂けたかと思います。
そして、うつ病を発症させないためには、小麦食品を避ける「グルテンフリー食」がオススメです。
グルテンフリー食とは、グルテンが含まれているパンや麺、お菓子などの食べ物を一切絶っていくことです。
「いきなり小麦食品を食べないなんて無理!」なんて思うかもしれませんが、一日一食でもいいので小麦食品を抜いてみましょう。
グルテンには依存性があるので、いきなり絶つのはかなり難しいです。まずは、朝食のパンを止めて玄米に変えてみることから始め、外食のラーメンやパスタなどは、和食やハンバーグなどの洋食に切り替えるなどして徐々に減らしていきましょう。
これを14日ほど続けると、驚くほど体調が変わりますよ。
また、餃子やシュウマイなどの皮にも小麦が使われているので、米粉の皮にしてみたり、ベトナムフォーなどの米粉麺にしてみる、米粉や大豆粉が使われたパンやケーキにしてみるなどして、工夫してみましょう。
ある程度グルテンが抜けて体調が良くなってきたら、多少は食べても構いません。どの程度小麦食品を許容するのかはご自身のライフスタイルに合わせて行いましょう。
例えば、友達と旅行やパーティーをした際、「私は小麦食品は食べないから」と言ってケーキなどを断ってしまうと、その場の空気が悪くなってしまいますよね。せっかくの旅行やパーティーなどの美味しい食事や人間関係が台無しになってしまいます。
普段の生活では、締めるところは締め、緩めるところは緩めていきましょう。グルテンフリーには、「こうしなければならない」という正解はありません。
あなたの調子が良ければ、それが正解なのです。無理せず行っていきましょう。
パンばかり食べる人はうつ病になる!まとめ
以上が、パンとうつ病の関係とその原因でした。
ここまでの流れをまとめると・・・
- パン食がうつ病に良いとされる説と悪いとされる説がある
- 分子整合栄養医学の観点では、パンはうつ病に良くない
- パンにはグルテンが含まれており、これが隠れたアレルギーや不調の原因となる
- グルテンは腸の粘膜を傷つけ、リーキーガット症候群を引き起こす恐れがある
- リーキーガット症候群になると、消化吸収能力が弱まり、うつ病の発症原因となる
- パンを製造、調理する際に使われる油の取り過ぎはうつ症状を引き起こす恐れがある
- パンなどの炭水化物を食べ過ぎると質的栄養失調になる可能性がある
- うつヌケや健康維持には、小麦食品を抜いていく「グルテンフリー」がオススメ
という感じです。
パンは調理いらずで、袋を空けたらすぐに食べられることから、忙しい現代社会において何かと重宝しがちです。
ですが、日常的にパンを食べることによって、心身共にかなりの悪影響がある事が分かって頂けたかと思います。
うつヌケしたいなら、今日からでもグルテンフリー食を実践していきましょう。
また、うつ病はパンに限らず、内分泌疾患や栄養欠乏など、様々な原因があります。詳しいうつ病の原因については、うつ病が発症する原因とは? メカニズムと要因を解説で解説していますので、参考にしてみて下さい。