うつ病は心の風邪とも呼ばれ、100人中15人の割合で発症すると言われています。
うつ病になると働けなくなったり、収入や地位を失ったり、最悪の場合は離婚問題に発展したりと、人生において破滅的な影響を与える恐ろしい病気です。
このうつ病は、心の病気や脳の病気と言われていますが、食生活や食べ物が原因でうつ症状が引き起こされることがあるのでしょうか?
今回は、うつと食べ物の関係と、うつになる食生活、うつにならない食生活を詳しく解説します。
目次
食生活の違いだけでうつ病は発症するのか?
うつ病の原因としてよく言われていることは、脳の神経伝達物質である「セロトニンの分泌不足」や「心の風邪」「怠け病」などがありますよね。
このような、「脳の病気」と思われているうつ病ですが、食生活や食べ物の違いで発症することはあるのでしょうか?
先に結論を言ってしまうと、うつ病は食生活の違いや食べ物の影響で発症することがあります。
その主な原因が、「質的内容失調」と「血糖コントロール障害」、「悪い油の取り過ぎ」があげられます。
それぞれ詳しく解説していきましょう。
「質的」な栄養失調でうつは発病する!
食生活が原因のうつ病として最も可能性が高いのが、「質的な栄養失調」です。
質的栄養失調とは、お腹いっぱいに食べていても、脳の神経伝達物質の合成や分泌に必要な栄養素が足りなくなってしまう新型栄養失調のことです。
現代社会の食生活は、パンや白米、うどんやラーメンなどの炭水化物に偏った食生活をしています。
このような炭水化物に偏った食生活では、脳の神経伝達物質の合成に必要なタンパク質やビタミン・ミネラルが欠乏し、心の安定に必要なセロトニンやドーパミン等の分泌量が低下してうつ症状が引き起こされてしまうのです。
脳に必要な栄養素と言えば、「ブドウ糖」や魚に多く含まれている「DHA・EPA」などが有名ですが、これら栄養素よりも、もっと重要な栄養素が実は「タンパク質」なのです。
なぜ、タンパク質がうつ症状や脳機能と関係しているのでしょうか?
それは、タンパク質を分解してできた「アミノ酸」が、セロトニンやドーパミン等の脳の神経伝達物質の材料になるからです。
次の図は、タンパク質を分解してできたアミノ酸から、脳の神経伝達物質までに合成される過程を表した物です。
タンパク質を摂取すると、胃酸によって様々なアミノ酸に分解されます。
そのうち、脳の神経伝達物質で重要なのは、「L-グルタミン」「L-フェニルアラニン」「L-トリプトファン」と呼ばれるアミノ酸です。
これらのアミノ酸は、ビタミンやミネラルの力を借りて、セロトニンやドーパミン等の様々な脳の神経伝達物質に合成され、消費されていきます。
よく、うつ病の原因はセロトニンの分泌不足や、ドーパミン・ノルアドレナリンの分泌不足などと言われていますよね。
実は、これら脳の神経伝達物質はタンパク質を元に作られていたのです。
ですので、パンや白米、うどんやラーメンなどの炭水化物が多い食生活では、タンパク質やビタミン・ミネラルが不足し、心の安定に必要な脳の神経伝達物質の分泌が低下するのは当然と言えます。
このような食生活や質的栄養失調によって、うつ症状は引き起こされていたのです。
女性は鉄不足がうつやパニックの原因に
女性の場合は、鉄不足もうつやパニックの原因になります。
鉄は、脳の神経伝達物質の合成に必要な栄養素なので、鉄分が不足することでドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンの合成が滞ってしまい、うつやパニックの原因となるのです。
特に、女性は毎月月経があるので、血液と一緒に鉄分やタンパク質が流れ出てしまいます。適切に鉄分を補給していかないと、必ず鉄不足に陥ってしまいます。
また、妊娠や出産を経験すると、赤ちゃんに栄養を持って行かれてしまうので、極度の栄養欠乏に陥ります。産後うつなどは、このような栄養欠乏が1つの原因なのです。
ですので、女性の場合は男性よりも栄養の消費が多いので、普段の食生活や栄養補給は積極的に行うようにして下さい。
鉄玉などで鉄分を補給したり、ヘム鉄などのサプリメントで補ってあげる事も有効です。
血糖コントロール障害がうつを引き起こす!
炭水化物や糖質の取り過ぎは、タンパク質不足になるだけでなく、血糖コントロール障害を引き起こします。
この血糖コントロール障害が、うつ症状の発症の原因となるのです。
血糖コントロール障害とは、次の図のように、空腹時血糖は正常値に収まっているにも関わらず、食べた直後にだけ大幅に血糖値が上昇し、その後一気に急降下する現象のことです。
人によっては、この急降下したときに低血糖にまで陥ってしまう人もいます。
これらは別名で「血糖値スパイク」や「隠れ低血糖」などと呼ばれている場合もありますが、全部一緒の現象を指しています。
では、なぜこのような血糖値の乱高下がうつ症状に繋がるのでしょうか? それは、血糖値をコントロールするホルモンは、脳の神経伝達物質と同じだからです。
血糖値のコントロールには、大きく分けて血糖値を上げるホルモンと、血糖値を下げるホルモンがあります。
血糖値を下げるホルモンは、インスリンというホルモンだけですが、血糖値を上げるホルモンは、アドレナリンやグルカゴン、コルチゾールなどの種類があります。
血糖値コントロール障害の仕組みとしては、人が甘い物を食べたとき、急激な血糖値の上昇に対して、体は血糖値を下げるためにインスリンというホルモンを大量に分泌します。
そして、インスリンが効き過ぎてしまうと、今度は血糖値が急降下して低血糖に陥ってしまうのです。
低血糖は意識の喪失など命に関わる事態なので、体は防御反応として血糖値を上げるホルモン(アドレナリン、グルカゴン、コルチゾール)などを大量に分泌します。
アドレナリンなどのホルモンは、交感神経を高める作用があるので、大量に分泌されるとイライラしたり、汗をかいたりします。甘い物や炭水化物を多く食べている人はキレやすいというのも、これが原因です。
そして、これらインスリンやコルチゾールなどは、脳の神経伝達物質と同じ材料を元に作られており、甘い物や炭水化物を食べれば食べるほど、これら材料が使われてしまいます。
この結果、心の安定に必要なセロトニンやドーパミン、GABAなどの脳の神経伝達物質の合成が滞ってしまい、うつ症状に発展してしまうのです。
ですので、心の安定のためには血糖がなるべく安定していることが重要です。
このためには、精製された糖質や炭水化物など、血糖値を乱高下させる食べ物を避けていくことが重要です。
悪い油の取り過ぎがうつ症状の原因に!
炭水化物や甘い物の取り過ぎと同じく、悪い油の取り過ぎもうつの原因となります。
悪い油とは、ジャンクフードなどに使われているトランス脂肪酸が多い油や、酸化した油、慢性炎症の原因となるリノール酸が多い油です。
油脂類には、ラードやバターなど常温で固まる脂や、サラダ油などの常温で液体の油など様々な種類の油がありますが、これらの中でも特に注意したいのが、サラダ油や大豆油、コーン油や紅花油などのリノール酸が多く含まれている油です。
これらの油に多く含まれているリノール酸は炎症促進作用があり、摂取量が多いと慢性炎症に繋がってしまいます。
慢性炎症は脳にも影響し、脳の慢性炎症がうつに繋がっている可能性が示唆されるようになってきました。ですので、脳の慢性炎症を引き起こさないためにも、悪い油を取り過ぎないことが重要です。
リノール酸が多く含まれている油はオメガ6系脂肪酸とも呼ばれ、サラダ油や大豆油、コーン油や紅花油など、様々な油に多く含まれています。
これらは安く大量に製造できるため、外食やお惣菜の揚げ物などに必ずと言っていいほど使われています。
このようなオメガ6系脂肪酸は、摂取すると体内でエネルギーとして使われる以外に、炎症を促進したり、抑制したりする作用があります。
しかし、そのほとんどが炎症を促進するアラキドン酸に変換されてしまうため、リノール酸が多い油を取り過ぎると、慢性炎症の原因になってしまうのです。
これとは逆に、魚に多く含まれるDHA・EPAなどのオメガ3系脂肪酸には、炎症を抑える働きがあります。
ですので、積極的にオメガ6系脂肪酸をさけ、意識的にオメガ3系脂肪酸を摂取していくことが重要です。
オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸は、必須脂肪酸と呼ばれ、どちらも摂取しなければならない油です。
これらは細胞に取り込まれる部位が一緒のため、常に場所の奪い合いをしています。ですので、これら油のバランスを変えてあげる事がポイントです。
意識的にオメガ6系脂肪酸を避け、積極的にオメガ3系脂肪酸を摂取するなどして、バランスを整えてあげましょう。
うつになる食事内容とは?
ここからは、うつ症状を引き起こす恐れがある食事を解説していきます。
うつ症状は前述したように、タンパク質とビタミン、ミネラルの不足や欠乏によって起こりやすくなります。
ですので、炭水化物過多やジャンクフードの取り過ぎ、タンパク質や脂質が不足するヘルシーな食生活は、うつ病にかかりやすくなると言えるでしょう。
炭水化物の取り過ぎ
うつ症状を発症しないために、特に気をつけたいのが炭水化物の取り過ぎです。
炭水化物には、主に白米やパン、うどんやラーメン、パスタ、芋類などがありますが、これらは摂取すると体内でぶどう糖に変換されるため、甘くなくても注意が必要です。
特に、かさ増しや節約のために日常的によく食べる機会が多い物ですので、取り過ぎがますます危惧されます。
炭水化物には、主に白米や小麦粉などの精製された物と、玄米や全粒粉などの精製されていない物があります。
精製された物は体内ですぐにぶどう糖に変換されてしまうため、血糖値の急激な上昇と急降下を招くので注意しましょう。
逆に、玄米や全粒粉などはゆっくり消化されるため、精製された物よりも比較的緩やかに吸収されます。もし、炭水化物を食べるなら、精製されていない物を選んで食べるようにしましょう。
甘い物、スイーツの取り過ぎ
炭水化物に続いて、お菓子やスイーツなどの甘い物の取り過ぎも注意が必要です。
特に、清涼飲料水や飴などのお菓子には精製された砂糖が大量に使用されています。これらを摂取すると、急激な血糖値の上昇と急降下を招き、それが精神状態にも悪影響を及ぼします。
日常的にお菓子などを食べている場合は、血糖コントロール障害から糖尿病にまで発展しかねません。
また、砂糖では無く人工甘味料が使われている物にも注意が必要です。人工甘味料の中には、摂取すると砂糖と同じく血糖値が上昇する物もあります。
カロリーや糖類が0となっていても、体に悪い物には変わりありませんので、なるべく摂取するのを控えて下さい。
もし口が寂しくなったときや、小腹が空いたときは、カカオが多く含まれているハイカカオチョコレートや、ポップコーン、おしゃぶり昆布などの甘くない物を食べるようにしましょう。
ジャンクフードの取り過ぎ
続いて、ジャンクフードの取り過ぎもうつを引き起こします。これは、主に悪い油が多く含まれていたり、炭水化物が多く含まれているからです。
例えば、ハンバーガーやホットドッグ、コロッケやフライドポテトなどは、炭水化物に加えて慢性炎症の原因となるリノール酸が多く含まれた油や、トランス脂肪酸が多く含まれている悪い油で調理されている物がほとんどです。
手軽に食べられるのが利点ですが、体に悪い物が多いので避けるようにして下さい。
また、トンカツなどの揚げ物にも注意が必要です。トンカツは豚肉が使われているので一見体に良さそうに思えますが、その衣に使われているのはパン粉であり、精製された小麦粉です。
さらに、大豆油やコーン油などのリノール酸が多く含まれた油で揚げられている場合がほとんどですし、砂糖が使われているソースをかけて食べてしまうと、更に糖質が多くなります。
ですので、トンカツといえど血糖値の乱高下を招きます。このような揚げ物を食べる時は、少し衣を剥がして食べるなどの工夫もするようにしましょう。
ヘルシーな食生活
野菜や果物中心など、ヘルシーな食事を心がけている方も、注意が必要です。
野菜や果物などは一見体に良さそうに思えますが、野菜や果物にも果糖やデンプンなどの糖質が多く含まれている物が沢山あります。
特に、果物の食べ過ぎには注意して下さい。果物は、昔に比べて果糖が多くなるように品種改良がされた物ばかりです。
果物は自然の物という認識が強いですが、実際はかなり人工的に作られた物ばかりです。
また、トマトやジャガイモ、サツマイモなどの芋類や一部の野菜も糖度が高くなるように品種改良されています。これらにも果糖やデンプンなどの糖質が多く含まれているので注意して下さい。
このような糖度が高い果物や野菜を食べるだけでも、精製された糖質を食べるのと同じぐらい血糖値の乱高下を招きます。
健康的な食生活だと思っていても、実際はかなり体に負担をかけていますので、なるべく避けるようにしましょう。
加えて、野菜中心だとどうしてもタンパク質が不足しがちになります。
ヘルシーな食生活を心がけているなら、タンパク源は大豆などの豆類が中心になりますが、これらだけで十分なタンパク質を摂取する事はなかなか難しいです。
タンパク質の摂取基準は、体重と同じグラム数か1.5倍のグラム数と言われているので、60Kgの方なら60gに相当します。
これを大豆だけで摂取しようとしたら、毎日200g以上の大豆を摂取しなければなりません。
しかも、大豆には大豆油というリノール酸が多い脂質が多く含まれています。ですので、長期的に摂取し続けるのはあまりいいとは言えないでしょう。
ですので、タンパク源としては、脂質が精製されてそぎ落とされているソイプロテインから摂取する方が理想と言えます。普段の食生活に、ソイプロテインなどのタンパク源を足すようにして下さい。
うつにならない食事内容は?
ここからは、うつにならない食生活を解説します。基本的に、上述した食べ物を避け、逆の食生活になるように心がけるだけです。
ですので、低糖質、高タンパク高脂質、高食物繊維の食生活が最もうつにならない食生活と言えるでしょう。
低糖質を心がける
うつにならない食生活の基本は、低糖質を心がけることです。
普段主食として食べてる白米やパンなどは抜いて、おかずだけ食べるようにしましょう。また、うどんやラーメンなどの麺類は極力避けるようにして下さい。
また、お菓子やスイーツ、果物や芋類なども、糖質が多いので控えましょう。
普段の食生活では、低糖質を心がけ、肉や魚などのタンパク質多めを心がけて下さい。
高タンパク高脂質
タンパク質は、脳の神経伝達物質の材料として欠かせない栄養素です。
また、脂質はホルモンの材料になったり、糖質に変わるエネルギー源になるなど、重要な役割を持っています。タンパク質を多めに摂るときは、脂質も多く摂るようにしましょう。
普段の食生活では、牛肉や豚肉などの肉に加え、卵や大豆、魚などを多めに摂るようにして下さい。これらには、タンパク質に加えて飽和脂肪酸などの良質な脂質が含まれています。
一日のタンパク質摂取量の目安としては、新宿溝口クリニックの溝口先生曰く600g程食べるのが理想とされています。
ちょこちょこ食べでもいいので、一日により多くタンパク質を摂取出来るように勤めて下さい。
また、私達の腸は同じタンパク質を続けて摂取すると、炎症やアレルギー反応を起こしてしまいます。出来れば同じタンパク質を摂取し続けるのでは無く、牛や豚、鳥、魚などをローテーションして食べるなど、腸に炎症が起きない工夫もしていきましょう。
高食物繊維
低糖質、高タンパク質、高脂質に加えて、重要なのが高食物繊維の食生活です。
私達の腸は、乳酸菌やビフィズス菌などの様々な細菌の力を借りて消化吸収を行っています。このため、腸の健康を維持する上で、これら菌の餌となる食物繊維を積極的に摂取する必要があります。
食物繊維には、水に溶けやすい水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維があります。どちらもバランス良く摂取する事が、腸の健康を維持する上でも大切です。
食物繊維が多く含まれている食べ物としては、キノコや海藻、レタスやキャベツ、ゴボウなどの野菜があります。
肉や魚に加え、これらをサラダにして付け合わせるなど、食物繊維を多く食べるようにしましょう。
まとめ
以上が、うつになる食べ物や食生活、うつにならない食べ物や食生活でした。
ここまでの流れをまとめると・・・
- 炭水化物、糖質過多の食生活はうつの原因になる!
- 糖質を取り過ぎると、血糖値の乱高下を招く
- 血糖値の乱高下は精神状態に悪影響を及ぼす!
- タンパク質不足は脳の神経伝達物質分泌不足に直結する!
- 悪い油の取り過ぎが脳の慢性炎症を引き起こす!
- うつにならないためには、低糖質、高タンパク、高脂質、高食物繊維の生活を!
という感じになります。
現代では、スーパーやコンビニで食料を調達することが当たり前なので、かなり気をつけないと炭水化物過多の食生活になってしまいます。
特に、節約志向や自炊をしない方にとっては、パンやカップ麺、お弁当やお惣菜などは有り難い存在です。
ですが、これらの食べ物を食べ続けると、血糖値の乱高下や悪い油の取り過ぎになり、うつ症状を発症しかねません。
うつ症状はこのような生活習慣からでも引き起こされる病気です。うつにならないようにするためには、普段の食生活にも気を配るようにしましょう。